センターとしての総括:②身内のいない障害者への支援について
(1)手術の保証人と同意人問題
<保証人、同意人は家族が引き受けるという社会通念>
保証人や同意人は、家族がやるものだ- という社会通念は今でもあります。
 しかし、今回のAさんのように遠い伯父さんと20年余りの年月に空白のあった関係の中で、頼む側も頼まれる側もかなりしんどいものがあったと察しています。ましてや「生死に関わる手術」だといわれことに、すごい重荷をお互いに背負ったことはいうまでもありません。
 今回のようなことは、特別なことなのでしょうか。確かに、センターにとっても初めてのことでしたが、同じようなケースを抱えているところはもっともっとあると思うのです。が、今までこのような問題が表に出てくることはあまりありませんでした。なぜならば、相談する側も受ける側も『保証人、同意人は家族が引き受ける』という考えがあったために自分たちの中だけで解決しようとしてきたからなのではないのでしょうか。

<生死と真正面から向き合う>
私たちは、今回のことを通して「危機的状況に陥ったときに、自分の命を誰に託すのか」ということと、「危機的状況に陥った人の命を、どのように判断・決断をし、そのことを誰が背負うのか」ということを真っ正面から考えさせられました。
 また、センターとしてこの重い課題をどこまで背負いきれるんだろうかと本当に悩みました。行政的なところや病院など、いろいろな所に相談をし、これまでこのようなケースをどのようにしてこられたのかを聞きました。しかし、『そこまでは私たちも立ち入ることができないので・・・』という返事がほとんどでした。
 ということで、真正面から向き合うことになるのです。

<Aさんの人的ネットワークで>
私たちとしては、Aさんが身よりのない人だったので、Aさんが今後も地域で生きていくためにはいろんな人たちとの関係づくりが重要だと考えました。そのため、Aさん自身の関係性のなかでネットワークをを作っていけるようにと考えました。
 その方法として、センターとして保証人や同意人を引き受けるというやり方ではなく、人を結びつけていく支援、つまり、Aさんを中心にした人的ネットワークづくりをしたのです。

<センターとして引き受けるのが当然だろう>
と思っていらっしゃった方も多いのでは、と思っています。
 現に、ある関係者の方から『なぜ、センターとして保証人・同意人をやらないのか』と聞かれたこともあります。大きな理由は、上記に書かせていただいたようにAさん自身のネットワークの中で解決したいと考えたからです。
 私たち自身も、保証人・同意人について考えていなかった訳ではありません。私たちが引き受けるのであれば、最終手段として、と思っていました。
 たとえ、私たちが保証人・同意人を引き受けることになったとしても今回と同じ課題にぶつかっていたでしょう。また、私たちで引き受ける場合の条件としてAさん自身の意思を文書にして出してほしい、ということでAさんには伝えていました。しかし、私たちが引き受けることで後に残るものはAさんのセンターに、あるいは個々人に対する依存関係だろうと考えました。
 人間は、誰しもどこかしら誰かに依存しながら生きています。でも、センターがAさんの全てを支えきれるわけではありません。また、ある程度の距離間も必要と感じていたからです。
 今だから言えることですが、私たちはAさんの万が一のことを考え、最後まで関わりきる覚悟から、亡くなった場合のお骨をどうするかまで考えていました。

<Aさんの意思を明確にする重要性>
 私たちは、誰が手術の保証人や同意人を引き受けるにしても、手術するAさん自身の意思というものが、はっきりと伝わらないと引き受ける人がいないだろうと思いました。それに対する手段として、本人の意思をきちんと残すための危急者遺言書や保証人や同意人になってもらう人と本人との責任の所在を明記した書類を弁護士さんと相談しながら作成しました。

(2)当事者の意思決定と尊重について
<Aさんの意思決定を実現するために>
Aさんの症状は、とても早いペースで進行していきました。私たちの目から見ても、本当に日に日に症状が進んでいたのでAさんがこの状況を受け入れることはかなり厳しいことだったろうと思います。
 このことから、センターとして最初の段階からAさんと病院・医師とのあいだに入って診察や医師の説明などに関わっていきました。 スタッフの1人が以前、知的障害者の方の入院と手術の支援に関わり、本人・兄弟・病院(医師と看護士)のあいだで、手術や治療、入院等のトラブルなどの問題について経験があり、最初から関わっていくことの重要性を分かっていたことがあったからです。

<具体的なかかわりとは>
 Aさんと病院・医師との間に入って進めていくための判断として次のことに重点をおきました。

 ・進行が早いので、Aさんが受け止められるのか。
 ・客観的に医師の話しを聞いて、本人に伝える(補う)役割。
 ・本人の意思を医師又は看護士に伝える役割。(治療・看護をAさんの意思を尊重して進める為)

 さらに、関係者も含めてAさんと病院・医師との間に入って進めていく

 ・個々に支援してくれる人たちと本人との間に入って状況を伝え、円滑に支援を行えるようにするための役割。
 ・本人と病院と保証人や同意人を引き受ける人たちをつなぐための役割。
 ・一時的な退院等の介助体制に備えた関係者をつなぐための役割。

 があったと考えています。

<病院とAさんの間でコーディネートをして>
進む事態に対して、Aさん本人が常に自分の状況を把握できるようにし、誰にも左右されることなく意思決定ができることを考えました。さらに、どういう状態になってもAさんの意思や状況を関係者に伝えられる状態にすることも重要なことだったと思います。
 Aさん本人に、常に意思を確認するように勤め、その意思を尊重して物事を進めるようにしてきました。
 こうしたことが、十分だったかどうか今後も検証していく必要があると思いますし、こうした取り組みは様々なケースに当てはまるのかどうか考えていきたいです。